最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)299号 判決 1952年12月25日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人上井源次の上告理由第一点について。
上告人は原審において、本件調停調書中に本件家屋を「昭和二三年九月一〇日まで賃貸する」とある趣旨は、単に賃料を昭和二三年九月一〇日まで据置くという意味があるだけであつて、明渡の合意は成立しなかつたと争つた。しかし、原審は、上告人のこの主張を認めず、各証拠を綜合して「昭和二二年九月一〇日の調停期日において本件家屋を昭和二三年九月一〇日限り明渡す旨の合意が成立した」ことを認定したのである。前記調停条項と原判決の認定とは毫も矛盾するところがない。調停条項においては昭和二三年九月一〇日まで賃貸すること、従つて同日までは明渡の請求をしないことを定めたものと解することができる。しかし、これだけでは同年九月一一日以後明渡の請求ができるかどうかを直接明示しているものとは解することができず、従つてこの調停調書をもつて直ちに明渡の執行を求めることもできない。それ故、被上告人は調停期日に明渡の合意の成立したことを主張かつ立証して、原審は明渡の請求を是認したのに過ぎない。調停条項と原判決の認定は矛盾することなく互に並行的に存立することを得るものである。それ故、原判決には違法はなく、所論は理由がない。
同第二点について。
原審の挙げている証拠によつて前記のごとく認定したことは当審においても肯認し得るところである。所論は、結局裁判官の自由心証に基づく証拠の取捨判断を非難するに帰し、上告適法の理由と認め難い。
同第三点について。
所論の事実関係のごときは、原審において本件を審理するに当り当然探究せねばならぬ事柄ではない。それ故、これを捉えて所論のように審理不尽の違法があるということはできない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)